エイト初代社長「ロン」話 最終話
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   代表取シマリス役 ロン社長 最終話 

 
  ロン社長を連れて、新居に引っ越した木枯らし平社員・・。

  新居は、新しく・・そして広かった。前に住んでいた団地は、1階であったが、今度は、4階。

  引越しを終えた私は、早速、シマリスのロン社長を新居に放ち楽しんでいた。
  
  杞憂は、ロン社長を放し飼いにできないこと・・。

  もっともロンの事だから・・近隣のベランダを駆け抜けて遊ぶには違いないが・・。

  事件は、ロン・・いや・・彼女をベランダに放した時に起こった。
 
  ベランダを素晴らしい速さで駆け巡っていた彼女だが・・彼女を部屋に戻そうと近づいたとき・・
  彼女は、4階から飛び降りたのだった・・。

  落ちていく彼女が見えた・・・。数秒後・・グシャっという音が聞こえた。

  私は、覚悟を決めた・・・たとえ助かっても・・複雑骨折は、覚悟しないといけない・・。

  あとで考えると、私の着ていた黒いTシャツを天敵のカラスと誤認したのだろう。

  1階の駐車場に降りていくと・・・・・なんと・・ロンは、生きていた・・・。
  しかも素早く飛び跳ねて・・。目を凝らしてみたが・・・少なくとも骨折は、していないうようだった。

  私は、落ちた箇所を調べてみた。

  アジサイ・・・・があった。 リスは、樹上にも登ることもあるので身体と尻尾を使って空気抵抗を
  増やすことができる。その能力とアジサイに助けられて、無事であったに違いない。

  しかし、いつものようにヒマワリの種の缶を見せても、まるで寄ってこようともしなかった。

  興奮していたのだろう・・。

  しばらく時間をおいて、彼女の小屋とヒマワリの缶で彼女を誘うことにした。

  小屋とヒマワリの缶を見て、彼女は、静止した・・・。ずいぶんと長い間・・・。
  
  そして、私と目をあわせ、決別するかのように頭を巡らし・・・目にも止まらぬ早さでかき消すように
  いなくなった。
  まるで、そこはリスなどいなかった空間だったように・・・。

  ずいぶんと探し回ったが・・・・本当に幽霊のように消えてしまったのだ・・・。
  そんなに見通しの悪い場所であったわけでもないのに・・・。

  私は、どうせ、どこからかひょっこり顔を覗かせるに違いないと思い、ヒマワリの種を蒔いて立ち去った。

  カゴを残しておけば、いつもどうり帰ってくるに違いないと思いながら・・・。

  結局、それっきりだった・・・。

  その後、2週間、私の捜索は、続いた。 リスの出没しそうなところにヒマワリの種を置いては、食べられて
  いないかチェックし、日の出とともに起きては、自宅の周辺を捜した。

  しかし、一度もヒマワリの種は、食べられてはおらず・・・彼女は、どこか遠いところまで行ってしまって
  みたいであった。

  前の団地ならまだしも・・・引っ越してきた新居なら・・普段、散歩もしていないので地理が分からなかった
  のかもしれない。ましてや4階に住居を構えていては・・・以前のように外から家に飛び込んでくることも
  できなかったのだろう・・・。
  
  意外に悲しくはなかった・・・。ひょんなことから、舞い込んできたリス。また、自由な暮らしをしたかったの
  だろう・・。そんな風に自分をなぐさめた。

  それに・・・私には、彼女を捕食できる生物などいないと確信していた。彼女なら3匹の猫に囲まれても
  やすやすと逃げおおせたことだろう・・・それどころか・・猫の鼻に鋭い牙をたてても・・・不思議じゃない・・。
  
  人間の私だって、真剣に喧嘩しても勝てなかったのだから・・。

  あの敏捷な3次元空中殺法は、タダモノではないのである・・。

  2週間も捜索したところで諦めが入ってきた・・。さすがに近隣の一軒屋の庭をにらみつけるように
  じっと見ているのは・・・不審者そのものであったことも・・・あるし・・。

  ロン社長の後釜には、代表取シマリス役として、ペットショップから迎えたチャッピー社長が就任した。

  シマリスとは、凄く賢く・・戦闘力と闘志にあふれた生き物だと思っていたのだが・・・。
 
  チャッピー社長は・・・まるで・・てんで駄目なシマリスであった・・。
  まるで・・野生が存在しなかったのである。

  私は、激しく落胆した。私に噛み付くどころか・・・怖がって逃げ惑う有様。チャッピー社長は、その後、成長
  しても・・内向な性格は、変わらず・・・ロン社長のような逸話も作れないリスだった。
  きっと、多分、それが普通のシマリスだったのかもしれない。

  それから、だんだんとロン社長の記憶が薄れ・・時間が過ぎた。

  夏が来た。      盛夏だった。

  
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  新居の駐車場の入り口一面には、びっしりと背の高い綺麗なヒマワリが咲き誇っていた。
  
  さすが、団地とは、違い気が利いている。入り口にヒマワリか・・・。

  ロンがいたら喜ぶだろうなと思った瞬間、新社長のチャッピー社長にヒマワリの種を
  差し入れすることを思いついた。

  いつもペット用の乾燥したヒマワリの種を食べているから・・・生の種だと さぞかし喜ぶに違いない・・。

  そう言えば、小学生の時、理科の時間でヒマワリを植えた事があったな・・・。
  俺のヒマワリは、みんなのと比べて一番貧弱で低かったな・・・。
  あの時は、一番大きく育ったヒマワリを育てたやつが、ひどくうらやましかったっけ・・・。

  夏が終わり始め、ヒマワリの花が種子をつけ始める頃になった。
  管理人に始末される前に人目をはばかり、泥棒のようにヒマワリの種を採取する私がいた・・。
  
  
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  盗むなんてことは、大嫌いだったが・・どうせ捨てられるなら・・その前に有効活用したほうがいいよな・・
  なんて、心で言い訳しながら・・。

  採取した種は、結構な量があった・・。これで、新任のチャッピー社長にヒマワリの生種をあげることができる。

  両手にいっぱい分の種を袋に集めた私は、上機嫌。
  家への階段を登りながら、戦利品のヒマワリの種を眺めていた・・・。

  その時・・・電気が走った。私は、立ち止まった・・・。

  この種・・・・この種・・・見たことがある・・・。日本のヒマワリの種じゃない・・。いつも見ている、ペット用の種。
 
  とっさに私は、すべてを了解した。

  このヒマワリは・・誰が植えたものでもなく・・私が蒔いた種から育ったヒマワリだったのだ・・。

  ロン社長捜索のため、来る日も来る日も 人のいない深夜や早朝に蒔いていたヒマワリの種・・。
  だから・・・1階の駐車場にびっしり・・隙間なく咲いていたんだ・・・。
  一箇所づつから、争うように咲いていたんだ・・。

  そうだ・・  蒔いていたのは・・・ちょうど・・春だったし・・。

  私は、その事実に気づくと・・知らずに涙がこぼれてきた・・・。ロン社長がいなくなってから・・はじめて
  ロン社長を偲び・・こぼした涙だった・・。

  ヒマワリの野郎・・・・でっかく育ちやがって・・・それもあんなにたくさん・・・。
  いままで見たヒマワリの中で一番、キレイだったじゃねぇか・・・よ。

  ロン社長・・・ありがとう。   
  ロン社長・・ありがとう。
  
  よくわからないけど・・ありがとう。
 
  なんか、もう一度、涙が出てきた。

  家族に涙を見られると恥ずかしいので、3階まで登って・・フロアの隅で景色を眺める振りをして泣いた。
  暗い茜色をした夕暮れ時だった。
  3階で少し泣いた。 それからしばらくして、涙と鼻水が、おさまってから、ハンカチをポケットにしまった。
  ヒマワリの種の入った袋を拾って、4階に登った。

  そして、いつもと変わらぬ顔をして帰宅のチャイムを鳴らした。
 

                                       

  
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                                     私の人生を変えてくれたロン社長に捧ぐ  
  
by simarisu10 | 2009-09-29 18:12 | 取りシマリス役の部屋
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