今夜は脱線でも・・・若き日の木枯し平社員の話 最終話
a0019545_21541745.jpg


今夜も・・酔いどれ平社員の山話なのです・・・。

 今夜は、飲み会でベロンベロン・・・。乱筆をお許しくださいですっ。

 前号までのあらすじ・・。
 
 仲間とキャンプに行った若き日の木枯し平社員。キャンプを抜け出し
 一人、近くの山へ単独山行へ・・。しかし・・その帰り道は、鉄砲水で崩壊していた。
 無謀にもこれを渡ろうとした木枯し平社員は・・窮地に陥るのですっ。


 万事休す・・・。動けば流星群の岩・・じっとしているとズルッズルッと大きな崖に
 追い込まれていきます・・。

 少しでも落下速度をくい止める為・両手を土の中に突っ込み、抵抗を増します。

 そして・・駄目もとなのですっ。力の限り、「助けてくれ~」を大声で連呼します・・。
 でも・・予想したとうり・・静かな山脈からは・・なんの反応もありません・・。
 涙がでてきました・・。よしんば・・誰かに声が届いたとしても・・木枯しは・・
 その前に崖の餌食になっています。死地は、もう・・目の前でした・・。

 戦意喪失した平社員・・・。心が空に吸い込まれるような感じで・・無になっていくのです。

 ふと首を後に向けてみました。

 晴天の空のもと・・背後にそびえる山が・・ひどく美しかったのです・・。
 静寂な山に鳥の声がこだまします。平社員が静寂の中、窮地に陥っている
 現実を除けば・・・それは・・それは・・・平和な風景でした・・。

 これが・・最後の風景かな・・。それは・・恐怖もなく・・悲しみも無く・・・ひどく透明な気分
 なのでした・・。鳥の声・・・美しい景色・・・青い空・・。
 人間は、誰かに看取られて死んで行く事が普通なのに・・・山の動物達は・・
 みんなこんな風に誰にも看取られるれることもなく・・いつもどうりのよくある日々の中で
 普通に死んでいくのかな・・。美しいのかな・・・淋しいのかな・・。この世とお別れするのって
 どんなのかな・・・。人間って・・所詮・・無力なものだな・・。山の動物達と比べると・・
 裸になって・・一人になって・・出来る事は・・動物以下のことしか出来ない・・・。

 ずるっずるっ・・と死地は、確実に近づいていました。思い切って落ちた方が生きる確率が
 高いのかな・・・・。

 不思議なものです・・・。感情が萎え、広がる心には・・矢継ぎばやに・・いろんな事が
 一瞬のうちに去来するのでした・・・。



 

 



 どれだけの時間が経ったのでしょう・・・。ふと、我に帰りました。

 「おい、お前、死ぬ気じゃないだろうな・・・!」心の中で声がしました。

 そ・・そうですっ・・。残された時間の中でやれることがあるはずなのですっ。

 木枯しの頭は・・打って変わって、とんでもない急回転をはじめました・・。

 まずは、周りの状況の分析。

 崖までは、あと15メートルほど・・。最初に見たときより・・随分、大きな姿に
 なっています。

 残された時間は・・そうは、ないのですっ。

 しかし・・よくよくみると・・鉄砲水の跡は・・木の根にはばまれていたのでしょうか・・。
 まっすぐではなく、その縁(へり)の一部は、木枯しのいる方に半島のような形で
 出っ張りを残している部分がありました・・。

 崖までの15メートル・・それは・・2箇所でした。そして・・その半島のようなところには・・
 雑草が生えていたのです・・。

 利用するとすれば・・ここしかないな・・・。この鉄砲水の跡を越えるとき・・最初は
 快調だった・・・。とすれば・・このフワフワパウダーの土は木枯しの周りの数メートル。

 岸?の方に行けば、フワフワパウダーの土の深さは、浅くなっているに違いない。

 よしっ!どうせ遅かれ、早かれ、覚悟をきめなきゃいけないのです。

 先ほどの折れた木の枝を掴むのです。なぁ~に、短くなった方が強度を増すのですっ!

 いくぜっ!半分に折れた木の枝を地中に差込み、これを抵抗として・二つの半島に
 向かい、あそこに向って滑り落ちるのです。

 フワフワな土に飲み込まれた身体を前に押し出すと・・・身体は、静かに崖に向って
 走り始めたのです・・・。そして・・・加速度がつきはじめたのです・・。

 ほんの僅かな時間の出来事ながら・・木枯しの身体は・腹ばいになった状態で
 結構なスピードをつけて滑落をはじめました・・。しかし・・ナナメにベクトルを
 とったせいで・・岸の方向に滑り始めました。

 まずは・・・一番目のポイント!木枯しの位置から少し離れていたのですが・
 片手が届きました。雑草の株に手が届いたものの・・・それは・・地表ごと離れました。
 木枯しの滑落の勢いは止まらなかったものの・・・落下スピードは、少し緩まりました。
 
 第二のポイント、ラストチャンスでした。抵抗にしていた木の枝を手放し・・
 タイミングを見計らい、第二ポイントの雑草の株に飛び込み、身体でくいつきました・・。
 実際・・この部分は・・・記憶が定かでありません・・。

 でも・・これで・・確かに滑落はとまり・・・木枯しは、崖まで5メートルほどの距離で
 命拾いをしたのでした・・・。

 木枯しが、滑落を試みたことで・・・凄い岩の流星群が上から降ってきました・・。
 その時見た・・最大級のものでした・・。それは・・悪質な犯罪行為をしてしまった
 ような・・・・。次から次へと降り注ぐ、岩の流星群・・。

 ススキ草らしき雑草の株につかまり・・・大変な事をしてしまった・・・と思いました。

 「落~っ」「ら~くっ・・・」って叫ぶ自分の声は・・緊張でカラカラになった喉のせいか
 しゃがれてしまって、何を発声しているのかわかりません・・。
 声がでない叫び声は・・まるで・・自分に対しての言い訳がましい叫びのようでした・・。

 ひととうりの事が・・終わった時・・木枯しは、自分の命を救ってくれたススキ草の株に
 「ありがとう」と言いました・・。そして・・ススキ草の株には・・それ以上のことが
 してあげられなかったのが・・・ひどくもどかしかったのを覚えています。


 そのあとの事は・・非常に記憶が薄れてしまっています・・・。ただ・・元の登山道に 
 たどりつく道の無い茂みの中に白いビニールが落ちていた事を生々しく覚えています。
 こんなところにまで・・・人間の臭いがしてやがる・・・。
 そんな事を思ってしまっていました。
 
 この話は、この後も続くのですが・・・。あまり・・話が長引くのもなんですし・・。
 このへんで・・・。

 このことを誰かに話すと、木枯しの単独山行どころか・・山岳部の活動まで停止に
 なりかねないと危惧した木枯しは・・詳しい話を・・いままで封印しておりました。
 
 そして、これが、私の人生で最後の単独山行となりました・・・・・。

 まっ・・そろそろ時効ですし・・・。人生のメモとして書いてみました。

 そうですね・・。ただ・・・あの時、万事休すと思って・・振り返った時の背後の山の美しい風景は
 心に刻まれて消える事がなく・・。いまだ時々・・フラッシュバックしてしまうのですよ・・。
by simarisu10 | 2007-03-23 23:05 | 平社員休憩室
<< 寿司づくし・・・なのですっ。 今夜は脱線でも・・・若き日の木... >>