選挙報道の裏側で(後半)


    
選挙報道の裏側で(後半)




 選挙報道の裏側で(前編)

  選挙報道の裏側で(中編)  

  前回までのあらすじ・・・・・

  選挙特番にかりだされた木枯らし。しかし、本番で開票所を中継するはずの
  中継車が調子が悪くリタイアしてしまった。

  特番の中で開票所の絵がないと・・・ちょっと間が抜けてしまう。

  前半戦は、西村ディレクターの機転でなんとか凌いだが・・・。
  最後の〆の開票結果の確定である開票所の公式発表の絵を本社に届けなければ
  いけなかった。
  西村ディレクターの最後の飛脚は アルバイトの木枯らしに任命された。
  番組の終わりまであと40分。慌てる本社のデスクの面子がかかっているらしい(笑)のだが。



  編集不要のノー編(一発撮りともいう)の絵が入ったビデオテープを取り出しながら
  西村ディレクターは、私を会場の外に連れ出した。

  会場の外にはタクシーが待機していた・・・。

  「いつのまにタクシーなんか呼んでいたのですか?」

  「さっき、デスクと電話で話したとき、一台廻してもらったのだ・・・俺は、このあと
   選挙管理委員会からのコメントがでるかもしれないので待機しておく。
   ここからタクシーを高速を使って走れば18分から22分の間で着くはずだ
   計算とうりなら、特番の終わりまでにギリギリ間に合う。
   ところで・・・お前・・・タクシー代を持っているか・・・?
   と言っても聞いた俺が馬鹿だった・・・お前が持っているはずないよな・・・
   よし、局の入り口で小津ちゃんに金を持って待機させておく」

   タクシーに乗り込もうとした時だった。

  「あの~、一緒に乗っけていってもらえませんか・・?」

  それは・・・NHKのカメラマンだった・・・・。

  私は、思わず西村ディレクターの顔を見た・・・敵局ですよ・・・・。

  しかし、西村カメラマンは「どうぞ」と素早く言って、NHKのカメラマンに乗車を促した。
  そして・・・・タクシーの運転手に

  「事故らない程度にぶっぱなしてくれ~」と運転手に言いながら、タクシーのドアを閉めた。

  局に向かうタクシーの暗闇の中・・・高速道路の規則正しく並んでいる照明灯のあかりが
  飛ばすタクシーの中に規則正しく明かりを投げかける・・・・。
  
  私は時計とにらめっこしていた・・・・そして予想以上に早いペースで進んでいる事を
  確認した。

  横を見ると、一緒に乗り込んだNHKのカメラマンがいる。なんども報道運の現場で会ってい
  つので・・・・否応なしにお互い顔見知りである。

  報道のカメラマンというとTシャツか開襟シャツが普通なのだが・・・このNHKのカメラマン
  は、夏の暑い時でもスーツにネクタイ姿の・・・・ちょっと嫌味な奴なのである。

  スーツ姿でカメラを廻す、このカメラマンはキザという印象がぬぐえなかった。
  
  報道の現場でも

  「えーっと・・・朝日新聞さんとNHKさんだけは取材OKです。あとの方は帰ってください・・」

  と・・・NHKだけは、特別扱いされる事がある。民放各社のカメラマンの不平の声の中
  いかにも当たり前という感じで取材に出向く、このカメマン・・・・。
  別にカメラマンがという訳ではなく・・NHKがそうなので・・特にカメラマンには罪はないのだが
  私の目には悪役にしか映らなかった・・・・。

  局に向かうタクシーの中、私たちはほとんど口をきかなかった・・・というより・・バイトの
  私と口をきくまでもなかったのであろう・・・本職の報道マンとしては・・・。
  
  「いやー、会場の前で待っているタクシーを使おうとしたら・・・あなた方の予約が
  入っているというじゃないですか・・・・・こんな所にタクシーを もう1台呼んだら
  何分かかるかわからないから・・・同乗をお願いしようとおもって・・・・」

  ずうずうしい・・・。

  交わした会話はそれぐらいだった・・・。しかし・・・私にとっては状況が状況だけに
  彼の言葉は、私の血が登った頭にさらに血を逆流させて送り込むに十分であった。

  局が近づいてきた・・・西村カメラマンの予想とうり18分で局に着きそうである。
  これだけ・・・ぶっぱなしてくれているタクシーの運転手に感謝せねばならない。
  西村ディレクターの18分で着くは、時速120㌔以上で高速を突っ走るという事を
  意味している。

  NHKのカメラマンが口を開いた。
 
  「私の局の方が近いので、先に私の局に寄ってください。30秒しかロスにならんでしょ?」
 
  き~~~さ~~ま~~っ! この言葉は私の頭にさらに血を逆流させた・・・。

  しかし・・・彼の言う事はもっともである。帰り道の間にNHKはあるのだ・・しかし・・・その方向
  に道をとると最短距離ではなくなる。多分、1分か2分のロスになった。
  
  NHKのカメラマンは「じゃ・・」と軽く挨拶して車を降りて行った。

  NHKのカメラマンが降りるなり、私は、興奮してかすれた声で運転手に
  
  「急いでください・・・お願いします」といった。

  運転手が、バックミラーの中でパッと満面の笑顔を見せ、うなずくのが見えた。

  タクシーがひときわ速度を上げて、局に向う。
 
  局の入り口では、小津アナウンサーが財布を持って待ち構えていた。

  多分・・・バイトふぜいの私を美人のアナウンサーが出迎えてくれるなんて・・・
  こんな事、人生で最初で最後だろうな・・・・。そんな事を瞬間的に思っていた。
 
  「ありがとうございます!」

  運転手さんに声をかけて、私は局の階段をかけのぼっていった。

  「木枯らし!待っていたぞ!おぅ、菅ちゃん!このテープをサブコン(副調整室)で
  大急ぎでチェックしてから、オンエアだ!」
  
  デスクの声とともに、菅野ディレクターが、私からテープを受け取り、駆け足でサブコンに
  向かった。

  報道室で、大役?を終え、私と佐々木アナでNHKのカメラマンをこき下ろしていた。
  「あいつ・・・結局、タクシー代も払おうとしなかったんですよ・・それでいてウチの局より
   先に開票所の確定の絵を流したら・・・やってられないですよぉ~~」
  「NHKのあいつね・・・。あのカメラマン、私も前からいけすかない奴だとおもっていたの
   よぉ~~。」

  少し、ざわついた報道室が急にしずまった・・。私も佐々木アナも慌てて口をとじた・・・。

  番組の画面に私の持ってきた開票所の絵が流れ出したのだ・・・。

  開票結果を地域ごとにゆっくりパンさせた画像が映る。(※パン→カメラを動かしながら撮る)
  
  それに合わせて、山田ディレクターが開票結果を読み上げはじめる。
 
  それはまるで・・・中継さながらに読み上げる声をカメラワークがシンクロしていた。
  これが編集無しの録画の絵だなんて・・・誰も思わないだろう・・・。
  まるで中継さながらの絵を流し続けながら、山田アナウンサーがやがて番組の終わりを
  告げた。
  
  画面に、まるで中継し続けているかのような開票所の絵が流れ続け・・・
  そして番組が終わった。
  
  報道室には他局の番組もチェック出来るよう何台もテレビがあるのだが・・。
  結局、NHKの画面からは、私たちの特番中に開票所の絵が流れることはなかった。
  編集を要したため時間がかかったのか・・それとも、一応、タクシーの義理をたてて
  くれたのか・・・・それとも・・ハナから、いち早く絵を流すなんて事は考えていなかった
  のか・・・。他の全国中継で三重の開票結果の確定などは、どうでもよかったのか・・。
  今となっては知る由もないが・・・・。

  「木枯らし!よくやった!」ドンと背中を堀内カメラマンに叩かれた。

  いや・・・私・・・実を言うとタクシーに乗ってただけで・・・今回、なにもしていないのですが・・。
  私も最後の絵が間に合って嬉しかったのだが、堀内カメラマンも同じくらい嬉しかったに
  違いない・・。

  おや・・・後ろの机から「う~~ん」と言う声がします。

  見ると、背もたれがやたら高い椅子の上で、西田デスクが骨抜きのクラゲ人間のように
  それはそれは言葉にできないくらい姿勢の悪い格好で座っていた・・・。
  というか・・・乗っかっていた。

  「お~~、終わった、終わった・・・フィ~~、おう、なんだか地獄から帰ってきたら
  腹が減ってきたぞ~~。
  お~い、小津ちゃ~ん、俺に美味しいキツネウドン、一丁頼んでくれや・・・・」

  椅子の上の疲れ果てたクラゲ人間が、両手を思い切り伸ばしながらのたまった・・・。

  やれやれ・・・。                                     

                                           (終)


  
by simarisu10 | 2005-09-18 21:57 | 局ネタ
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