捜鳥記2
         
     捜鳥記

<第2話:加速する悲しみ>

第1話:闇への序章>より続く

5月1日(日曜日)

 日曜日の朝までは遠い道のりであった・・。早く、夜が明けないかと意識の無い眼で窓を
眺めていた。しかし、いつしか眠ってしまったらしい・・・。

朝、目覚めたのは5時であった・・。

    まずい・・・・空が白ばみかけているじゃないか・・・・。

夜明けを5時半と考えて5時に目覚ましをセットしていたのだ・・・。まだ、床につく前に目覚ましを
セットしていた。あの底しれぬ狂気が襲ってくる前であったのは助かった・・。

自分でも驚くほど敏捷に動き、僅か数分のうちにPCの「迷い鳥掲示板」に目をとうし、必要な
装備を準備していた・・。

現場までは十数分・・まだ・・・・なんとかなる・・・・。

しかし、夜があけつつある神崎川の河川敷には、休日ということもあり、多数のジョギングする人
ウォーキングを行う人が詰めかけていた・・。

私は現場にたどりついた時には、陽は昇り、あたりはすでに明るかった。
 
探すべき場所は山ほどあった。茂みの中、川面、空、3次元空間の全てが捜索の対象であった。

どうすれば・・効率の良い捜索が出来るかなどは知らなかった・・・。

朝、早くいけば必ずチュン部長に会えると信じていた・・・。昨日は闇が辺りを覆うまで捜索して
いたのだ・・・。文鳥は暗くなると動かない性質がある。明るくなるやいなや、活動を開始して
私を探すことを信じていた。

姿が見つかれば・・・こちらのもの・・・いつもどうり私の組み手の合図で手元に戻ってくるで
あろうと思っていた・・・。しかし・・・・現実は・・そう甘いものではなかった・・・。






探せど、探せど・・・チュン部長(白文鳥)は見つからなかった・・・。

私は後でこの時の事を第2回捜索と名付けた。

第2回捜索は2時間半に及び続けられたが、さして成果はなかった。ただ、部長を失った
ポイント(後で 第一重点ポイントと名付ける) からさして遠くない距離に交番を見つけた。
早朝のことでまだ誰も交番にはいなかった・・・・。しかし、希望をつなぐ一つの道ではあった・。

2時間半の捜索をしているうちに・・・右足が変調を起こしはじめた・・・。

そうだ・・・・私は痛風の発作中だったのだ・・・・。その時まで痛みも感じないで歩き回れたのは
私の身体に非常事態警報が発令されていた証拠である。知る由もないが、アドレナリンと
脳内モルヒネの分泌でも起こっていたのであろうか・・・・。

私は痛み止めと朝食を取るために家に引き返した・・・。


第3回捜索・・・同日昼頃・・・。

早朝、見つけた交番に飛び込んだ・・。遺失物として文鳥が保護されていないかを調べる為だ。
小さい交番には予想に反し、大勢の警察官がいた・・・。

 警官   「どうかされました?」  「あの・・・落とし物として文鳥が・・ありませんでしょうか?」

「はぁ・・・文鳥ですか・・・。」   ええっ・・・白い文鳥です・・・。

向こうで婦警さんが  文鳥・・と吹き出して笑っているのが見えた・・・。無理も無い・・。

「お~い、あれはなんだっけな・・?」と警官が別の警官に呼びかけた・・・・。

やった!とこの時は心の中で快哉をあげた・・・。

「ああ~~っ、これは鳥じゃなくて、犬ですね・・・ 」  

私の心は一気に冷え込んだ・・・。

立ち去ろうとしはじめた私に警官が聞いた・・遺失物届けをだしますか?はい、もちろん・・。
嬉しかった・・・・文鳥の落とし物をまともに受け止めてくれるのだ・・・・。
(あとでわかったことだか・・・ペット類も正式な遺失物なのだ・・)

ひととうり、書類に必要事項を記入した私・・。警官から質問が飛んだ・・・。

「あの・・・名前はなんというのですか?」

「チュンです。」

「はい・・・チュンですね・・。」

向こうでさきほど吹き出した婦警さんが、ちゅん・・・・・とうめきながら・・・笑いを堪えるのに
必死な形相をしていた・・・。

すでに小さな交番に7人ほどの警官が詰めている、この場所で私は全ての注意をひく
好奇の的にされていた・・。

私はすでに狂気な状態に入っていたが、自分の置かれている状況くらいは分かった・・。
狂気と恥ずかしさ・・・怒り、悲しみ・・・・そして、部長が遺失物扱いしてくれている嬉しさ・・。
全ての感情が入り交じったなか、私の額からは自分が可愛そうなくらいな汗が出ていた・・。
暑くもない気候のなか、私のジーンズには額からしみ出た汗でいくつものシミが出来ていた。

第3回捜索は折から降ってきた小雨の中で行われた。

傘をさしての4時間以上もの捜索でも部長を見つけることは出来なかった。

しかし・・成果がなかったわけではなかった・・・。きっかけは雀であった・・・。
捜索を続けているうちに雀が川面に向かい、垂直に弧を描きながら飛ぶのを見たのだ・・。

   あの時の部長と同じ飛び方だ・・・・・。

あわてて雀を追いかけ、川面に駆け寄った私は、雀が川の護岸壁のへりにいるのを発見
した・・・・・。

違う・・・・あの時は護岸壁は捜した・・・・でも・・・見つからなかった・・・・。

傘を差し・・・・再び捜索を続ける私の目に、またもや川面に向かい垂直な弧を描いて雀が
飛んだ・・・。

あ・・・・あれは・・・まさしく・・・・あの時の角度と速度・・・・。

川辺に駆け寄った私は・・川面の見えない部分から先程の雀が飛び立つことを確認した。

川面と護岸壁・・・ここに・・・ヒントがある・・・。確信した私は、雨の中誰もいない事を幸いに
護岸壁を詳しくしらべた・・・。水面から50cmのところに護岸壁を補強するために巨大な
ボルトが生えていた・・・。それも1メートル間隔で・・。ボルトは波状に加工された護岸壁の
補強材のくぼみにあるため、真正面から無理やり身体を押し出し覗き込まなければ・・
わからなかった。

そうか・・・あのとき・・・部長は、この巨大なボルトに止まったのだ・・・だから・・・
神隠しのように見えなくなってしまったのか・・・・・・。

折から降りしきる雨は強くなり、これ以上の捜索は無駄であった・・。
それでも・・・私は雨の中で雀たちを観察しづけ・・・いくつかのポイントを掴むことになる・・。

第3回の捜索を終えた私は、この雨の中で震えているであろう部長を想うと・・・。
またもや昨夜襲ってきた底知れぬ恐怖・・不安・・・悲しみに捕らわれてしまった・・・。

夕刻、雨が小降りになるのを見取った私は第4回捜索に乗り出した・・・・。
雨の中・・人気のなくなった河川敷。川面に続く、鉄の梯子にぶら下がり・・・必死に部長を
追い求める私がいた・・・。 傍目から見ると・・・この異常な行為・・・私の狂気は少しずつ加速を
増していっていた・・・。     

成果は・・・・なかった。


第5回捜索・・・・同日・・・夜9時

窓の外では雨が強くなっていた・・・。部長・・・この雨の中・・・大丈夫ですか・・・・・。
その頭の中の質問で私は傘をとり、真っ暗な河川敷に向かっていた・・・。

夜・・・雨の降りしきるなか・・・真っ暗な河川敷に 部長の名前を連呼する私の姿が
あった・・・。すでに狂気の中、私は自分が分からなくなっていた・・・。
加速する悲しみ・・・・ペットロス症候群  第2期「極度の悲しみと絶望」の状態であった・・。

そして、私は・・・・深夜まで街中を意味のない徘徊を続けた・・。

その夜は睡眠導入剤をチュウハイ500mlであおった・・・。
そんな事をしてはいけない事は分かっている・・・ただ・・・あの・・底知れぬ狂気の虜に
なるくらいなら・・・・・・そうした方が100倍もマシだった・・・。薬の効きはじめる30分後・・・
私は崩れ落ちそうな感覚のもと・・眠りに落ちていった・・・・・。

「明日の朝も早いのだ・・・。」



<第2話・・・加速する悲しみ・・・・(終)><第3話 暴走へ続く
  
by simarisu10 | 2005-05-05 22:16 | 捜鳥記
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