捜鳥記
          
          捜鳥記


<第1話 闇への序章>

4月30日 土曜日

外科に行くと医師が・・これはすこぶる高いね・・と言いながら検査の結果を私に告げた。
重度の痛風であった・・・・。違う事を密かに祈っていたのだが・・・・。
結果が重度であったことはショックであった。その場で整形外科に行くように指示された。
幸い、土曜日で整形外科ではすぐに治療を受ける事が出来た。
痛み止めの薬を貰い会社に戻る。昼に痛み止めを飲んだ・・。

痛み止めの薬の効き目は素晴らしく、人の1/3の速度でしかあるけなかった私は
その日の午後の4時には、かすかなビッコをひくまでに回復した。

痛風の原因である、右足親指の間接に溜まった尿酸をとるには、軽い運動とストレス発散と
睡眠が必要であった。

ホームページで調べたのだが、ウォーキングがいいらしい・・・。
なるほど・・・ストレス発散、軽い運動・・・少し運動すれば、夜はぐっすり眠れそうだ。

名案だな・・・・。よし、自宅から十数分の距離にある神崎川の河川敷を歩こう。
秋、チュン部長(白文鳥)と散歩した道だ・・・。

そうそう・・あの時は肩に文鳥を乗せて散歩する私を見て道行く人々が軽い驚きをみせるのが
愉快だったな・・・・。

部長・・・最近、換羽期(トヤ)で落ち込んでいるし・・・よし!部長も連れていこう・・・。

でも・・・秋からしばらく・・・経っているし・・散歩できるかな?

試しに部長を肩に乗せ、マンションの通路を歩いてみた・・・。部長は逃げる様子も無く
私の肩につかまって機嫌よさそうにしている。

問題なさそうだ・・。

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私は善は急げとばかり・・・部長を外出用のカゴに入れ、カバンに詰め込みデジカメと共に
河川敷に出かけた。

足はまだビッコを引いていたが、周りの人間からはジロジロ見られない程。

河川敷に着くと人目に付かない茂みに隠れ、部長を取り出し、写真を撮る。
部長はジョギングをする人間を見ると驚き飛び立ってしまうのだ。
もちろん、飛び立ってしまっても・・・それほど飛べず迎えにいけば、また手に乗ってくれる。
しかし、それでもジョギングや自転車に乗った人に会う可能性がある場所は避けねば・・・。

おとなしく手に乗り、肩に乗り、写真を撮られる部長・・・。

ひととうり、写真を撮り終え、カメラをしまった時であった・・・・。

肩に軽い衝撃を感じた。部長が飛び立つために足に力をこめてジャンプしたのだ。
連続したはばたき音と風を感じた。

飛び立つ瞬間の部長の顔を1/100秒のコマのようなカットで私の眼が捕らえていた。

今までになく力強いはばたきで部長は垂直に弧を描き、かなりの速さで10メートル向こうの
川面に落ちて行った。

馬鹿な・・・・。




5秒であろうか・・・私は部長の後を追い、川面を覗き込んだ。川の両脇はコンクリートで護岸
されている。覗き込んだ眼から2.5メートル下が川面だ・・・・。

いない・・・いないのである・・・。川面にはいない・・・。左右の護岸壁にもいない。護岸壁に
生えている茂みにもいない・・・・。

可能性は二つ。対岸に飛んだか川面すれすれに川下に飛んでいったかである。

対岸までは100メートルはありそうだ。5秒で100メートル飛べるほど部長の飛行速度は
早くない。おりからの夕方の逆光で部長が飛んでいる姿が消えたとしても肉眼で見える
視界は30メートルはある。どのみち30メートルを5秒で飛ぶ速度も無い・・。

となれば・・・可能性はひとつ、川下に向かい川面すれすれに飛んだのだ・・・。

文鳥の身体は軽い。足がつかなくとも水面で水浴びができるのである。波もない川に
沈むはずもなかった。

私は、急いで川下に急行した。周囲に目を配りつつ・・・。

しかし、見つからない・・・消えてしまったのである。どうしても、見つからない・・・。

焦る私を横目に、見つつ夕陽は速度を増しながら、どんどん沈んで行く。

1時間半もたったであろうか、一度も部長の姿を確認することなく、あたりは闇に包まれた。

何故だ・・・どうしてだ・・・。完全にパニックに陥った私は、捜索を打ち切り、川を離れた。

パニックに陥った私が向かったのは、江坂にあるペットショップである。

閉店間際の店に私はずかずか入っていき、文鳥のコーナーに向かった。

汚く、不完全で、問題を抱えている中ヒナばかりがいた。白文鳥を探したが、とても酷い
仲間に引きちぎられて尾羽根がなくなった白文鳥が1羽いるだけだった。
こんなものが買えるか・・・・そばに羽がきっちりしまらないがノーマル文鳥の毛並みのきれいな
中ヒナがいた・・・これにしよう・・・これを買おう・・・と思った瞬間であった。
ノーマルのヒナが汚い白文鳥を追いかけ回していじめはじめた。

    白文鳥(部長)をいじめるな!

ボロボロな白文鳥の眼には恐怖があった・・・。こいつ・・・死ぬな・・。私は思った。

5分後、汚い白文鳥の2625円を払い、ペットショップを後にする私がいた・・・。

今考えると、なんでこんな事をしたのか、良くわからない・・・。理由のひとつは文鳥のいない
自分の部屋にすざましい恐怖を覚えていたので、これを回避したかったこと。
現実を直視できない自分がいたのだ・・・。

それから、この時すでに私は正気を失っていた。狂っていたのだ・・・。
ただ・・・その狂気は、その後に押し寄せる狂気に比べると・・・・随分、可愛いものであった。

その夜、私は新しく手に入れた文鳥の名前を考えることに熱中していた。

本当の狂気が押し寄せてくるのは・・・・明日の朝の捜索に備え、床についた時であった・・。

なにがあったのかは・・・よく覚えていない・・。ただ・・・まっくらな部屋で寝もせずに文鳥
の捜索方法について必死にパソコンを操る自分がそこにいた・・・。すでに底知れぬ狂気が私を襲いはじめていたのである・・・。

迷い鳥」の掲示板にチュン部長を登録し、捜索依頼をだした・・・。

いまだに・・・・その夜のことはよく覚えていない・・・・。     

                  (捜鳥記  闇への序章 終わる・・・続きはまた・・・・)
by simarisu10 | 2005-05-04 19:30 | 捜鳥記
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